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第64話 入院②

Author: 霞花怜
last update Last Updated: 2025-07-09 19:30:59

「それこそ、RISEの本拠地に連れて行ったのかもね。薄暗い部屋、ぼんやりした灯にゆっくりした一定間隔の音。外部の刺激を極力なくして、同じ場所に何日も閉じ込めると、人は思考力が低下する」

「かくれんぼサークルのヤリ部屋みたいな?」

 晴翔の問いに理玖は頷いた。

 ヤリ部屋という表現が、何とも生々しい。

「睡眠を出来る限り削り、食事を少なめに、特に糖質を減らして更に思考力を削ぐ。その環境で、二人にとって心地よい言葉だけを与え続ける。例えば……、好きな気持ちを隠さなくていい。空咲さんと恋人になれる方法がある、とかね」

 晴翔が、ぐっと息を飲んだ。

「心地の良い言葉とセットで、RISEの理念を教え続ける。WOは至高の存在、normalは愚物、onlyはotherの子供を産むべき。WO同士なら好きになっていい。……積木君の話から抜粋すると、そんな感じかな」

 晴翔の顔が蒼褪めた。

「思考を低下させた状態で、二人の気持ちや本音を聞き出して、RISEの理念と共に心地よい言葉を与え、行動を促す。成功例が、晴翔君を襲った白石君なんだろうね」

 自分で話していても、吐き気がする。

 人間の自由意思を奪ってまで子供を産ませて人口を増やそうとするやり方が、気持ち悪い。そこまでしてWOを増やして、何がしたいのだろう。

「白石君が、俺を想ってくれていたなんて、全然気が付かなかった。それどころか俺にとっては、大勢いるバスケ部員の一人でしかなくて。真野君みたいによく話すわけでもなかったから、むしろ印象の薄い子でした」

 晴翔が後悔した顔で俯いた。

「もっと話し掛けていたら、何か違ったのかな」

 理玖は手を伸ばして晴翔の頭を撫でた。

「学生全員と話ができるわ

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